【完結】セ・ン・セ・イ
――しまった、と、後から気付いても遅い。

酒を飲みなれない俺は、酒の恐ろしさを理解していなかった。


それでも初めの内は、まだ良かったのだ。

「例えばさぁ、『妹みたいな』友達とか、年下の従妹の話だったってのは?」

と裕也にしては理にかなった意見が出たり、そこそこまともな議論ができていたと思う。

残念ながらこの意見は、「確かにそれなら」と賛同しかけた俺を制した木嶋により、あっさりと弾かれたが。

曰く、

「それじゃメールに返事が来ない理由にならない! 『本当の』妹じゃないって言えば済む話だし、友達だろうと親戚だろうと連れて来ればいいじゃない」

とのことで、言われてみればその通りだった。


客観的に聞いた話だけを繋ぎ合わせているからか、幅広い視点から意見を出してくれる裕也だけど、当事者である俺や木嶋を納得させるには至らない。

結局『答え』に行きつかぬままに酒ばかりが進み、そしてついにろくな進展もないまま――、酔っぱらった。


思考回路が破綻して話し合いに適した状態ではなくなった代わりに、口の滑りだけは良くなる。

そして俺はいつの間にか、話すつもりのなかったことを話したらしい。


つまり瀬戸朱莉の家で起こったアレについてだ。

俺が何を言い朱莉の母がどう発狂し、そしてそれに対し朱莉がどんな様子だったのか。


生徒のプライベート、家庭の事情をきちんと把握も出来ぬ内に無責任に吹聴するなどもっての外、言語道断、教師失格だ。

やっちまった、と気付いた時には後の祭りで、案の定今、俺は2人に怒られていた。


「お前なぁ、なんでそういうコトを……」

「もっと早く言わないのよっ!!」


――否、『案の定』、ではない怒られ方をしている、らしい。
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