【完結】セ・ン・セ・イ
それでも、と、自分に言い聞かせる。

職場が認める喫煙所で成人が煙草を吸うのは、別に悪いことなんかではないはずだ。

それでこの人の人格が、俺が尊敬してきたモノが変わるわけではないのだから。


「先生、俺実は、教師を目指してるんだ」


――あなたに、憧れて。

いつか伝えたかったその言葉は、何故か、喉元で支えて出てこなかった。


それは俺が「夢を叶える時まで」と自分を律してきたからなのか、それとも僅かに感じた失望が邪魔したからなのか、単に面と向かって言うのが気恥ずかしかっただけか――、正確なところは、自分でも分からない。


俺の夢を「そうか」と咀嚼した先生は、真上に広がる青い空を見上げて、何かに思いを馳せるかのようにその目を閉じた。

待つこと数十秒、追想から戻ってきた彼は、ゆっくりとした動作で煙草に火を付ける。

目線が「お前は?」と尋ねてきたきたので、首を横に振って答えた。

「俺、まだギリギリ未成年ですけど」

「そうか! もう二十歳かと思ってたよ」

先生は目を見開き、煙草を持つ手を少し上げて「じゃあ、付き合わせちまって悪かったなぁ」と言う。

二十歳までは確かにもう1ヶ月を切っているが、誕生日を迎えても俺が煙草を吸う予定は今のところないのだが。


ところが、煙草の話はそれで終わりではなかった。


「今となっては、ソレが俺の夢なんだよ」

煙を長く吐き出しながら、彼は続けた。


「乳臭ぇガキのまんま入学してきた生徒が、まだ青臭ぇまんまどんどん卒業していって――、それでも、最初に送り出した生徒は、俺の知らないところでちゃんとこうして大人になってる」

昇っていく煙を黙って見つめながら、俺は先生の独り語りを聞いていた。


「ちゃんと大人になった元生徒と、一緒に酒を飲んだり煙草をふかしたりさ。大人同士にしか出来ない付き合いが出来るようになるのが、ちょっとした夢なのさ」
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