【完結】セ・ン・セ・イ
「ハンバーガー。いいね」

自然と手が伸びて、朱莉の頭をくしゃりと撫でる。

ちょっと、と小さく文句を言いながら、彼女はその手を払いのけなかった。


『お金持ちの一人娘』の演技をしていない時の彼女の表情はコロコロと変わる。

こうしていつも自然にしていればいいのに。

そう出来る様にしてやりたい。

この方がずっと魅力的なのに。


――え?
あ、いや。

別に、俺は。


……って、誰に言い訳してんだ俺は。

彼女は可愛いよ、普通にこうして笑って話していたら魅力のある女の子だ。

この方がずっと自然で楽しそうだし、これが彼女自身だ。

変な闇に囚われない、本来の彼女の姿。

だからこっちの方がいい、戻してやりたい。


そう思うのは別に特別なことじゃない。

ごく自然な思考回路だ。


ハンバーガーなら駅前のあの店か、と、少しばかり億劫だが再度駅方面へと方向転換しかけた俺のTシャツの裾を、くんっと朱莉が引っ張った。


「ごめん、ちょっと遠いけどあっちがいい」


駅と真逆を指した後、彼女は少しだけ目を伏せた。

「駅前だと誰かが」――……ごく小さな声が聞こえた気がした。


気のせいだったかもしれない、心の声だったのかも。

ハンバーガーを食べると言う極めて普通の行為すら、演者である彼女は、人目を気にしないといけない。


ほらこんなだから、やっぱり、放っておけない。

戻してやらなきゃ、――俺が。
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