ESORA PINK《短》
01 「私もそんな趣味ないわよ」
ワインボトルが空になったとき、インターホンの音がした。
やっと、来たか。
時計を見ると午後十時過ぎを指していて、それは私が彼に連絡してから約一時間半経ったことを示している。
マイペースな彼にしては急いで来てくれたほうだろう。
私は客人を迎えるために、ボーナスを全てつぎ込んだお気に入りのソファから立ち上がった。
瞬間、クラリ、と視界が揺れる。
だけどその原因ははっきりとしているので気にせずに、揺れる視界の中、玄関へ向かう。
頭が揺れているのか、足元が覚束ないのか、はたまたその両方なのか。
どちらにしても、多少酔っ払っても思考までアルコールに支配されないところが私の長所でもあり短所でもある。
そんなことを考えながら、一人暮らしにしては広い家の廊下を歩く。
そして、玄関に出しっ放しにしているミュールを足に引っかけながら、不用心だといつも注意される鍵のかかっていないドアを開け、私はそのままドアの向こうにいた客人に抱き付いた。