ESORA PINK《短》
廉はこの家に何度も来ているけれど、一人で来たことは一度もない。

その理由はもちろん、私のことが嫌いだからだ。

「俺だって好きで居てるわけじゃねえよ。ただ、八智にお前が目を覚ますまで見とけって言われたんだよ」

私の吐き出した煙が自然と廉のほうに流れていった。
その煙を廉は手で散らしながら、迷惑そうに眉間に皺を寄せる。

自分だって喫煙者のくせに。


「そっか。ありがと」

だけど、廉と言い合うのは不毛だ。

そう判断した私はまだ余裕のある煙草を灰皿に押し付けて、グラスに残っていたウイスキーを一気に飲み干す。

そしてまだ開けていないブランデーのボトルに手を伸ばした。

「お前……まだ飲むのかよ」

氷を取ってくるのが面倒でそのままグラスに注ぎ、一口飲んだところで、廉が呆れたような声を出す。

その声にはなんの含みもなく、ただただ本気で呆れていることが伝わってきた。
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