ESORA PINK《短》
冗談と本気が入り混じる雰囲気の中で、どんな返事をくれるのか待っていると。

「本当に? でも、残念。俺、誰かに見られながらやる趣味はないんだよね」

そんなつまらない返事をしながら、八智は開けっ放しになったままのドアの向こう側を指差した。

八智の動作で全てを理解した私は、名残惜しいけれど鎖骨から手を離して、ドアの向こう側を覗き込む。

そこには私が出会った人の中で一番美しく整っている顔を持つ男が、不機嫌な表情で佇んでいた。


相変わらず、私のことが嫌いなんだな。

その不機嫌な表情のおかげですぐにそうわかったけれど、私は彼のことがけっこう好きだ。

「なんだ。廉(レン)もいたのね」

だからわざと、そんなふうに言ってみる。

私のそんな態度に素直に反応してくれた廉は、彫刻のような美しい顔で私を思いきり睨みつけてきた。
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