チョコレートなんか大嫌いっ
目を覚ますとそこは保健室だった。

『…ぇ』
『目覚めた?』
『ぁ』
『嘔吐して倒れたんだよ』

目の前に白衣を着た眼鏡の男の人がいた。
保健室の岩崎先生だ。
岩崎先生に言われて自分の状況が少しずつ見えてくる。

『熱はないし、日頃の疲れが出ちゃったのかな。昨日はしっかり寝れた?』
『ぁ…はい』
『そっか。なにかイヤなこととかあった?』
『…ぇ』
『ストレスってね、すぐ身体に悪さをするんだ。ほら、これ飲んで』

先生に暖かいマグカップを渡される。
岩崎先生は男の先生なのに異性を感じさせない話しやすさがあった。
学校の中で一番心を許せる人かもしれない。

『ぁ、おいしい…』
『でしょ。みんなには内緒ね』

マグカップの中身はホットチョコレートだった。
昔から大好きだったチョコレート。

いつからか、食べなくなったチョコレート。

『もう少し休んでいきなさい』
『もう大丈夫です…』
『だーめ。先生も今日は暇だしお話しよーよ』

先生が葵ちゃんみたいなことを言うから少し笑ってしまった。
先生ってすごいんだな。
自然と私の心に寄り添ってくれる。
だけど踏み込みすぎない。

大人の気遣いを感じた。

先生とたわいもない話をしていたらいつの間にか放課後になっていた。
いくらなんでも無駄話が過ぎてしまった。
先生は悪びれた様子もなく笑っていた。

『何かあったらまたきなさい』

そう言って汚してしまった制服を渡してくれた。
そういえばいつの間にかジャージに着替えていた。
どうやって着替えさせたのか、怖かったので聞かないことにする。
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