チョコレートなんか大嫌いっ
二週間後――

あの日から深沢拓海とは元の距離を保てていた。
いつ絡まれるかとビクビクしていたが、至って平穏な日々。
もう飽きてくれたのだろうか。

『高木ぃ』
『ぁ、葵ちゃん』
『今日ひまぁ?お店お休みなんだぁ』

葵ちゃんは家族みんなで美容室をやっている。
だから毎日慌ただしく帰っていたみたいなんだ。

『やーっと、ケーキ食べに行けるねぇ!行こ行こぉ』
『ぁ…』

私の返事を待たず、葵ちゃんは帰り支度を手伝い相変わらずの強引さでぐいぐい引っ張っていく。
その強引さに救われている部分もあるので自然と口角が上がっていた。

連れてこられたのは葵ちゃんのお店シャルールの近くの【reposer】ルポゼという喫茶店だった。

『いらっしゃいませ』
『りょーちん、おひさぁ』
『ちっ、なんだ葵かよ』
『お客様に舌打ちしないのぉ』
『さっさと帰れ』
『はぁ?客に帰れとかありえないんですけどぉ』
『うるせーな、お前は無銭飲食ばっかりじゃねーか。そんなん客っていわねーの』
『はぁ?こんな寂れた喫茶店に来る客なんて誰もいないじゃん。だからあたしがサクラで来てあげてるんでしょ』
『ウチは喫茶よりも夜のバーで儲けてるからいいんだよ』

2人の怒濤のようなやり取りに圧倒される。
そんな私を葵ちゃんがカウンター席に案内してくれた。

『この人、てんちょーの幼馴染みでこの店のマスターの涼介ってゆうのぉ』
『おい、涼介さんだろ』
『りょーちんでいいよぉ』
『よくねー』

2人はすごく仲良しみたいだった。
こんな言い合いがなんだか微笑ましくて羨ましくも感じる。

『あ、ちなみにぃ、りょーちんとウチのてんちょーデキてるからぁ』
『へ?』
『おい、デタラメ吹き込むんじゃねぇ』
『デタラメじゃないよぉ!いい歳こいて2人して独身だしぃ。』
『まだ20代だ』
『わざわざ近所に店だして、お互いフランス語で店の名前つけてんだよぉ』
『偶然だ』
『嘘だぁ!しかもね、わざわざ【ぬくもり】と【やすらぎ】ってペアみたいな名前してんのぉ。もうそれホモじゃーん』
『ホモじゃねぇっていつも言ってんだろ!』

私がキョトンとしていたら葵ちゃんが分かりやすく説明してくれた。
シャルールはフランス語でぬくもり
ルポゼはフランス語でやすらぎ
っていう意味なんだって。
確かに偶然にしては出来すぎてるかも……
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