チョコレートなんか大嫌いっ
『ここだよ』
にゃあ~

連れてこられた場所は猫カフェというところだった。
生まれて初めて来た空間に胸が高鳴った。

『か、かわいい…』
『でしょ?時々来るんだ。』
『そうなんですねっ』

どこを見ても猫、猫、猫。
手の届く範囲なのに猫たちは怯えるそぶりもなく堂々と寛いでいた。
人懐っこいタイプの子は顔から体から擦りつけてくる。

『わあ!よしよし…柊さん!この子……』

と柊さんをみると猫の群れに埋もれていた。
嘘でしょ…!
すご…!

『ここの猫ってさ、野生じゃないのになんでか自由を感じるんだよね』
『自由?』
『そ。うまく言えないんだけど人に媚びるでもなく好きなように過ごしてるっていうか。自分のやりたいことだけやってる。そんな感じかな?』
『あ、わかるかも』
『そんなところが好きなんだ。悩んだ時とか猫たちを見てると俺はまた自分で何かに縛られてるって気がつくんだ』
『……?』
『つまりね、「無理」とか「出来ない」とかって自分が勝手に作った足枷だと俺は思うんだ。生き物には無限の可能性があるのに、常識とか調和とかで無意識にあり得ない選択肢を外してしまう。だけど、いざやってみたら案外その「あり得ない選択肢」がベストな選択だったりするんだよね』
『あり得ない…選択肢……』
『うん。だから俺も常に自由でありたいと思ってるんだ』
『私も…そう思います』
『ただ、人間のダメなところは忘れっぽいところなんだよね。そうしようって思っててもすぐに忘れちゃうんだ』
『確かに』

猫と戯れながら柊さんとお話する時間はすごく楽しかった。
いつもよりも上手く喋れている気さえしてくる。

『ふふっ、真紀ちゃん、ここ気に入ってくれた?』
『はい、とっても!』
『良かった』
『今日はすっごく楽しかったです』
『俺もだよ。それに真紀ちゃんの笑顔も見られたしね』
『…な…』
『また、俺とデートしてくれる?』
『……っ…』

な、なんてことをこの人はサラッ言うんだろうか。
心臓が痛いくらい活発になり身体が熱くなる。

『真っ赤っか』
『ふぇ…?』
『可愛い』

ふわっと柊さんの香りに包まれた。
何が起きているのか頭の中がぐるぐるしていて情報を処理してくれない。
この状況が理解できない。
ただ分かるのは優しい感触に全身が包まれているということだけ―――

抱き締められている。
そう認識したのは身体が離される瞬間だった。

『ふふ、今日のことは全部葵たちには内緒ね?』

有無を言わさぬ笑顔で迫られコクコクと、やっとのことで頷き返す。

生まれて初めての秘密の共有。
この人は私をドキドキ病で殺す気なのだろうか……
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