チョコレートなんか大嫌いっ
あれから葵ちゃんに柊さんとはどうだったのか聞かれた。
秘密の約束をしたので、いっぱいいっぱいになりながら普通だったと伝えた。
葵ちゃんにはあからさまに訝しげな顔で見られたが、慌てて話題をそらして事なきを得た。

次の日曜日も駅前に13時にくるようにと葵ちゃんに言われた。
それだけでドキドキと心臓が煩い。

やっぱり葵ちゃんに変な顔をされてしまった。

男の人に免疫をつけるのはこんなに心臓に悪い事なのだろうか……

『悪いっ、待たせたかな?』
『…!あ、いえ』

てっきり柊さんが来ると思っていた私は、シャルールの店長爽二さんの登場に心底驚いた。

『なんかこういうの久しぶりでどうしたらいいんだろうな』

照れ臭そうに爽二さんは鼻の頭をかいている。

『ま、普通に楽しめばいっか。行こう、真紀ちゃん!』
『ぁ、はい!』

照れを誤魔化すかのように勢い良く動き出した。
大人でも照れたりするんだ。
年齢差という壁により、遠いものだと思っていた距離が少し縮んだ気がした。

爽二さんに連れてきて貰った場所は、あらゆるスポーツが楽しめる複合施設だった。

『真紀ちゃん、普段運動とかする?』
『ぁ、全く…』
『そっか。じゃあ、簡単なヤツやってみよっか』
『はい』

選んだのはバドミントン
これなら小さい頃にやったことがあった。

爽二さんと軽く打ち合いを始める。
久しぶりで最初はあんまり返せなかったけど、だんだん感覚を取り戻してきた。
やってみると結構汗かくんだな。

『よし!じゃあ、そろそろ勝負しようぜ!』
『え』
『負けた方が勝った方の言うことをなんでも聞く』
『えぇっ!?』
『大丈夫!ハンデはつけるから!20点取ったら俺の勝ち』
『20点…』
『真紀ちゃんは俺から1点でも取ることが出来たら真紀ちゃんの勝ち』
『…1点?…バカにし過ぎですよ!』
『お!じゃあ、3点取ったら真紀ちゃんの勝ちな』
『上等ですっ』

そう言って笑った。
運動をしてアドレナリンが出ているからか、普段なら絶対言わないような強気な発言。
我ながらこんなことが言えるなんて驚きの連続だった。

戦況は追い込まれていた。
爽二さん18点
私1点

ただ、案外勝負強いのかここにきて爽二さんが打ってきたシャトルに身体が俊敏に反応している。
何度目のラリーか分からないが長い打ち合いが続いた。

『あ』

長いラリーに焦れた爽二さんが強めに打ち込んだのだが、まさかのアウトだった。

『やった!』

思わず声が出た。

『くっそぉ!』

爽二さんは大人げなく悔しそうだ。
よほど悔しかったのか、すぐに1点返されてしまった。

19対2

どちらかが1点取った時点で勝敗が決まる

緊張にラケットを持つ手が汗ばむ。

慎重にそして確実に相手に返すことを意識した。
爽二さんも私のしつこさに、心底楽しそうに笑った。
その余裕がちょっと悔しい。
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