学園ディストピア
長いブザーの音が試合の終りを告げた。

やっと終わった疲れた。俺と金剛は何も言わずに同じように体育館の壁際に向かって歩く。

風紀たちは自分の親衛隊たちに囲まれて飲み物やタオルを受け取っていた。まるで芸能人みたいなふるまいの風紀。


「ちょっとさ、今の試合おかしくない?」

その他大勢の親衛隊の1人が言う。

「だよね、なんで霧矢様が負けるわけ?」

霧矢って誰かな?こいつらは風紀の親衛隊だから、風紀の誰かのことだろう。

確かに弱すぎて話にならなかった。那珂さんが上手すぎるのもあるけど、それだけじゃ勝てない。

「ぜったい、あのヤンキーたちズルしてるよね?」

いやいや、そんなわけないですから。それでも、最初は愚痴みたいなレベルだったその不満は少しずつ増幅していく。

「絶対そーだよー」
「あいつらまともに試合するはずないじゃん」

なんだその小学生的思考回路は?

ついには審判の生徒までクレームをいれ始めた。

「ぜったいおかしい!」
「ありえない!霧矢様が負けるなんて!」

審判の生徒はなだめるのに必死になっている。

「落ち着いてください!」

途端にブーイングが起きる。新庄先輩と那珂さんはのっけから全く関心が無いのか俺と金剛から少し離れた所で壁際でしゃがんでいる。

俺は横の金剛を見ずに話しかけた。

「これ、まずいよな」

立ち止まると額から汗が吹き出る。流れるそれを袖でぬぐった。
同じぐらい金剛も暑そうだ。

「変ないちゃもんつけられて、先輩たちが暴れなけりゃいいんだけど。」

親衛隊に罵声を浴びせられ続ける審判には同情する。こんなものを見ていても仕方ないので、二人でグラウンドが見える体育館のドアの所まで行った。外から微かに風が吹き込んでくる。気持ちいい。

目の前のコートでは調度サッカーの試合中だ。


「あ、あれ」

金剛の指差す方には春日旭。

「あ、ゆずひくんもいる」


春日旭はどんくさいようだ。何度もボールを蹴り損ねて転ぶ。
それを見た副会長があわてふためき、今にもコートに飛び込んで行きそうだ。

「あれのどこがいいのかねぇ」

金剛が呟く。 もちろん副会長に宛てた言葉だ。あの涼しげな目の眼鏡副会長は、春日旭にベタ惚れしている。

俺はそれに答えた。

「好みは人それぞれでしょ?」

俺には理解出来ないけれど、どうしようにもない。こればかりは。

「そりゃ、そうだけど」

「だけどあの春日旭は那珂さんが好きみたい」

「え?」

目をまんまるにした金剛。なんだか間抜けで可愛いげがあるぞ。

「副会長が可哀想」

とだけ言ってあげよう。なんだって他人をいきなり殴るような人間だ。状況が状況でも。

「春日旭もホモなの?」

「多分ね。」

またぼんやりと外の試合を見ていると、ボールと一緒にゆずひくんも走ってきた。 小動物だ。

この子は親衛隊達のようなあざとさではなく無意識に庇護欲をかきたてる。幸薄そうな所まで。
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