学園ディストピア
「体力がいるんだよ。」
体力?
目線を壇上に戻す。若山先輩はあの愛想笑いを浮かべたままだ。
「はい、ダルイからすぐに捕まっちゃえ、とか思った1年生はダメだよ。捕まったらバツゲームだから。捕まえた上級生の言うことを聞いてもらいます!」
なにそれ、怖い。
上級生の方を見ると、獣のように目をギラつかせていた。
なにそれ、ヤバい。
「それでは、はじめっ!」
新入生は全員
一斉に走り始めた。
その顔は真剣そのものだった。
蜘蛛の子を散らしたように学校中にバラバラに走っていく新入生。それを飢えた獣のような目で追いかけ回す上級生たち。
激しい足音が体育館を揺らす。
鬼だ。
このイベント鬼過ぎる。
あ、鬼ごっこだったっけ?
必死に走って、裏庭まで回り込んだはいいが、どうする?
とりあえず森の茂みに隠れる。
上級生はこの地形を熟知しているはず。新入生には不利でしかない。
必死に走ったので金剛とも分かれてしまった。
茂みの向こうにはうろうろとする上級生。
くそう、森からは出れそうにない。
虫がいてもやなので早くここから出たいが。
俺はとりあえず息を詰めて、森の奥へゆっくり後ずさる。
一歩、一歩・・・
ばれるな 、ばれるな、
足元の枯れ葉がガサガサと音を立てる。
茂みの奥は流石に人が入りにくいとこもあってちょっとした空間になっていた。
ここなら簡単には見つからないだろう。
腰を下ろして空を見上げる。
まぶしい
いい天気すぎて目がつらい。
バカなことをしたな、と茂みから外を伺おうとするがヒトの気配はするものの姿まで確認できない。
同じ場所で暫くいると不安になってくるもので、茂みを暫く奥へ進むことにした。
また、開けたとこに出た。
でも、誰かいる。
その誰かは木にもたれて眠っているようだった。
黒猫のような短い艶々の髪が呼吸に合わせて上下する。
上級生だろうか。
でもあのピアスには見覚えが・・・
「誰?」
この掠れたような声は、間違いない。
同室者の那珂だ。
「・・・あの、えっと」
那珂は顔をあげてこちらを確認するとまた目を瞑った。
なんだ、お前か、というふうに。
誰を期待したのかは知らないが、怒っているようでも無いので、居座ることにした。
どうやらこの人、入学式などには毛頭出るつもりもなく、こうして人目につかない場所で時間潰しをしていたようだ。
想像通りと言えばそうだが。
前はなだらかな下り坂になっていて、所々木が生えている。
これ以上行くと敷地から出てしまう。俺も近くの木の下に腰を下ろす。
また、目をあけた那珂と目が合う。
「なに?」
なに、て、
「なんでもない、です」