二度目の恋の、始め方
雄大がいつも言ってた。優秀な兄貴にはいつも適わないんだって。現に悟さんは有名医大を首席で卒業し春から研修医として宮路総合病院で働いている。
ゆくゆくは、ココを継ぐんだと思う。
「お父さん、キミにずっと付きっきりで3日間まともに寝てないんだよね」
「……えっ!」
「心配で心配で仕方なかったんだよ。家族愛は大いに結構だけど、医者の立場からすると勘弁願いたいかな~」
「ご迷惑かけてすみません……」
「でも心配してくれる人がソバに居てくれるって幸せだよ。どんな特効薬より、家族の愛情がなによりの治療法だからね」
ベッドから起き上がって、困ったように微笑む悟さんに苦笑いで頭を下げる。
真っ黒の卵焼きも裏返しの洗濯物も、不器用なお裁縫も。その全部がお父さんなりの愛情だったのかなって、そんなことを思っていると病室をノックする音が聞こえて。
「………あ」
大勢のお医者さまを連れて現れたこの病院のご主人様に、瞳を見開いた。
「ああ。悟、ここに居たのか。もうすぐカンファレンスの時間だぞ。ペーペーの研修医が遅刻するんじゃない」
「……すみません。院長」
「川嶋さん、具合はどうだい?」
白髪混じりでオールバックに整えられた髪。ネイビーのネクタイを締めて白衣をまとった威厳のある風格はまさにここの主。
点滴の数値を見たあとに、私を見て眼鏡ごしに瞳を細める。