二度目の恋の、始め方

私の言葉に一瞬だけ、顔を歪めた壱樹は血の滲んだ手を力無く下ろして、山田さんに背を向ける。眼鏡越しの瞳に溢れそうな涙をためた山田さん。
だって分かるもん。人を好きになるってこんなに苦しくて切ないものなんだって。

「クダらない」

「……壱樹……」

「クダらないけど、今回は凛に免じて許してやるよ。もし次、凛を傷付けるようなら、マジで地獄いきだと思えよ」

「……どうして……どうして川嶋さんなの!?私のほうがずっと……
入学した時から葉山クンを好きなのにっ!」

「……山田さん」

「凛とアンタじゃ比べるだけ損だ。目障りだから、早く俺の前から消えてよ」

山田さんに背を向けたまま、冷たい言葉を吐き捨てた壱樹。

フラフラとその場に立ち上がる山田さんは、涙を必死にこらえるようにして階段を駆け降りて行く。その小さな背中にかける言葉なんて見つかるはずもなく、去っていく彼女をただ呆然と眺めていた。


「ハァ。凛はどこまでお人好しなの」


そう言って、私の頭を撫でる壱樹はさっきまでとは別人のように優しく微笑んだ。

「壱樹、手……血が出てる……」

「ああ。こんなの平気だよ」

「駄目だよ。保健室行こう」
< 126 / 130 >

この作品をシェア

pagetop