二度目の恋の、始め方
壱樹の腕を引いて保健室に入ると先生は居なくて、開けっ放しの窓に備え付けのレースカーテンが風に揺れて少しだけ肌寒い。
中央の丸椅子に壱樹を座らせて、棚から薬箱を取り出し、血の滲んだ手の甲に消毒液をつけた脱脂綿をあてながら無言の壱樹の顔を覗き込む。
「大丈夫?」
「俺さ、アイツ……美月を裏切ったんだ」
「え?」
「生まれた時からずっと一緒で、何をするにもドコに行くのにも、俺の隣には必ず美月が居た。でも、成長するにつれて双子の俺達は親から比べられるようになった」
黒髪から覗く壱樹の綺麗な顔は苦痛に歪んでて、私はそんな弱々しい壱樹の声を聞き逃さないよう、包帯を巻き終えて、壱樹の長い足の間に中腰で屈んだ。
「………そうだったんだ」
「うん。俺は親に認められたくて必死で勉強したよ。もともと頭は良い方だし成績も上位を取れた。でも美月は違ったんだ」
「違ったって……?」
「アイツはいくら頑張っても俺には届かない。それが分かって、親は美月を厄介払いするようになった。出来の良い俺が居れば美月は要らない。それが親の口癖」
「……そんな……ひどい……」
「でも実際、アイツを狂わせたのは俺だよ。俺の存在が、美月を苦しめてるんだ」
そう言って、拳をふるわせる壱樹。そんなにしたらホラ、また包帯に血が滲むのに。たまらずに壱樹の手に自分の手を重ねた。