二度目の恋の、始め方
「……ウチに帰りてぇなぁ」
バックに詰めた着替えを引き出しに入れて、洗濯する洋服と入れ替える。窓辺に置かれたお母さんの写真を見て、お父さんは時々そうやって愚痴をこぼすんだ。
お母さんが事故で死んで男手一つで私を育てたお父さんが倒れ、検査の結果、お酒の飲み過ぎで肝臓が弱ってることが分かった。
完治させる方法は肝臓移植しかない。
「凛、学校は楽しいか?」
「うん。友達もできて楽しい」
「さっきの連中に自慢してた。ウチの娘は名門校で、しかも特待なんちゃらだって」
「……特待生だよ」
何度言っても覚えない我が親ながら馬鹿な父。そんな父でも居なくなると寂しいもので、毎日のように聞いていたこの豪快な笑い声も聞けば安心感をあたえてくれる。
「貴美ちゃんにも見せたかったなぁ。凛の制服姿。すげぇ喜ぶだろうに」
「天国で見てくれてるんじゃない?それにお父さんの事、怒ってるよ、絶対」
「だろうなぁ」
「早く治して、お墓参り行こう」
そう言うと無精髭をさすって照れたように笑うお父さん。今でもお母さんが大好きなのが伝わってきて自然と笑みがこぼれた。