二度目の恋の、始め方
act、3
「ちょっと凛!来てるよ、来てる!」
雄大のマンションに泊まった日から一週間がたった。朝早くに逃げるようにしてマンションを飛び出した私は、あれから一度も雄大とは会えていない。いつも通り教室から屋上をちらちら覗いていると、興奮気味のきょんが私の腕をいきなり引っ張った。
「どうしたの、何?」
「来てるのよ!」
「来てるって誰?」
「だ~か~ら、楠木理玖だって」
そう言ってドアの方を指さすきょん。確かにそこに不機嫌そうに立っているのは、ヒョウ柄の薄手のパーカーに同色のヘアピンでおでこを上げた小柄な理玖の姿。
「楠君だ~!」
「今日も可愛い~。あの可愛さはもはや神だよね。神。」
なんて、きゃっきゃ言ってるクラスの女子に理玖はいつもの笑顔を向けて、私を見るなり顎で来いと生意気に合図をする。
「理玖ちゃん!騒ぎになるから教室には来ないでって言ってるのに。どうしたの?」
「りんりんさ~、一体どんな手使ったの」
連れて来られたのは人通りの少ない廊下。理玖はだらしなく履いた制服のズボンのポケットに手を入れて、私を鋭く射抜いた。
「意味わかんない。理玖ちゃん、何?」
「それはこっちのセリフ~」
そう言って理玖の視線の先には一人の男子生徒。一瞬、雄大かと思ってドキッとしたけれど艶やかな黒髪は彼のモノではない。