二度目の恋の、始め方



「凛ちゃん、明日、選抜頑張ってね~」

「さよなら~」

放課後、明日の試験に備えて家で予習するように壱樹に言われて、友達に別れを告げ急ぎ足で靴箱からローファーを取り出して上履きと履き替える。
帰ろうとして、ふと肩に掛けたスクール鞄を探ると受験票が無いことに気付いた。


「あれ?……あ、教室だ……やばいよ、壱樹に怒られちゃう………」


鬼のような壱樹の顔を思い浮かべるとサーッと血の気が引いてゆく。
明日の試験は市内の文化会館を貸し切っておこなわれる為、受験票が無いと門前払いされるし取りに帰る時間も無い。


靴を脱ぎ捨てて、上履きも履かずに慌てて三階の教室に戻る途中、突然、どこからともなく伸びてきた手に腕を強く引っ張られて、女子トイレに連れ込まれた。


「え?な、に………」

「暴れないでよ。川嶋さん」

「や、山田さん?」

そこに居たのは、おさげ髪に眼鏡の山田花江さん。意味が分からなくて呆然としていると、山田さんは眼鏡の奥の瞳を歪ませて私の腕を強く握る。
< 98 / 130 >

この作品をシェア

pagetop