壊れた玩具は玩具箱に捨てられる
ロベルトは赤子を抱えて静かに空間を後にすると再び顔に触れた。すると、今度はしわの深く刻まれた老人の姿になった。その赤子の為だけに用意された部屋に赤子を運び、今度は召使い達の働く宮殿の自室に向かうと、引き出しの中から羊皮紙と万年筆を取り出す。角張って神経質そうな手で万年筆を握ると、羊皮紙に流れるように文字を連ねた。

「次期帝王、誕生」

部下達にその羊皮紙を渡すと、部下達は踊るような足取りで作業机に向かい、同じ羊皮紙を何十枚も作った。高さが30㎝はありそうな紙の束を一人一人が持ち、宮殿の外へ駆け出して行く。各自高台に登り、「女帝万歳」と叫びながら盛大に紙をばらまいた。

「クリス女帝が次期帝王をお産みになった!!」

「女帝万歳!クリス女帝万歳!」

紙を拾っては万歳と叫ぶ。次期帝王は、期待と愛に包まれて生を受けた。

次期帝王の名は知らされなかった。何故かは分からない。だが、疑問に思う帝国民はいなかった。

名が知らされぬなら、『次期帝王』としか呼び名は無い。ただ、長くて呼びづらい…帝国民達は、神からの授かり子と言う意味で

『ドナート帝王』

と呼んだ
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