壊れた玩具は玩具箱に捨てられる
人間、目が覚めるときに一番始めに機能するのは聴覚だと聞く。チュンチュンと小鳥のさえずる声がジェロディの耳に届いた。薄く目を開けると、まばゆい日の光が隙間から入ってきた。朝だ。ぼんやりと天井を見つめる。白く品のある天井だ。ゆっくりと上体を起こし、辺りを見回す。赤く金の刺繍が施された絨毯の上には天井に届きそうなほど背が高い本棚。特にジェロディのお気に入りの本で埋め尽くされている。その近くには天井と同色のクローゼット。普段と変わりない光景。

「…?」

ジェロディは、"何か足りない"と感じた。何かは分からないが、大きなものが欠けている気がした。なんだろうかと考えていると、扉をノックする音が響いた。

「どうぞ」

「失礼致します」

重たげな扉の向こうから現れたのは、見覚えの無い女性。細身で長身、気難しそうな顔をした彼女。事務的な言動や態度が、ジェロディはあまり好きになれなかった。

「…あの、どちら様でしょうか。僕に何の用ですか?」

見覚えの無い女性に警戒する。しばらくの沈黙があり、女性はやれやれと言わんばかりにため息を吐き、口を開いた。

「…身の回りの世話をしている召使いの顔をお忘れですか?坊っちゃん」

坊っちゃん…その言葉を聞いた途端、脳内の靄が全て吹き飛んだような衝撃が走り、様々な事を思い出した。誰がここにいたのか、なにがあったのか…目の前の召使いだと名乗る女性を睨む。表情の変化に目の前の女性は少し動揺したのを見逃しはしなかった。

「…僕は、忘れたりなんてしていませんよ?…あなたは僕の召使いなんかじゃありませんからね。覚えているわけが無いでしょう?ちゃんと覚えているんですよ、ちゃんとね…」
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