しょっぱい初恋 -短編集-
彼と付き合い始めたのは、高校1年の時。
今まで恋愛経験はあったけど、全然続いた試しはなかった。
長くてもせいぜい3ヶ月ってところだろうか。
付き合ったといってもそれらは本当に言葉だけで、彼と付き合うまでは、まともに手を繋いだことさえもなかった。
彼と他の人と、一体何が違ったのか。
その明確な違いは分からないけれど、とにかく彼は他の人とはまるで違って、一緒に居れば居るほどもっと一緒に居たいってそう思えるような人だった。
今思えば、あれが私の初恋だったんじゃないかと思う。
うん、確かにそう。私は彼と初めてちゃんとした恋愛をした。
二人で過ごしたクリスマス。
ドキドキしながらも交わしたファーストキス。
「ずっと一緒」って小指じゃなくて薬指同士で約束したこともあった。
それから…、突然訪れた別れの日。
些細なケンカが原因だった。
強がってしまったこと。
突き放してしまったこと。
引き止めなかったこと。
あのとき泣いて嫌だと引き止めれば、もしかしたら今とは違う未来になっていたかもしれない。
そんな淡い期待が現れては消えていった。
「――ハァ…」
学校でもため息、ファミレスでもため息、帰り道でもため息。
おいおい、私は一体この風にどれだけ幸せを流せば気がすむんだ。
「どうしようも無さすぎてどうしたらいいのか見当もつかない」
「それはもう、暴飲暴食、早寝遅起きをするしかない」
「え、何。明は私に一体何を求めてんの」
「さぁ、なんでしょーかね……、っ!」
「ん?」
話を中断して急に立ち止まった明。
店を出てからずっと空を見上げていた私は、明の視線の先を確認しようと顔を前に向けた。
けれどもその前に、明が腕を強引に引っ張りもと来た道に戻らせようとする。
明の行動がいまいち読めなかった私は、何も考えず後ろを振り返ってしまった。
「あ…」
「……行くよ晴」
「ゆ…うき…?」
「晴!」
「あ、うん…」
それと、その隣にいるのは京子(きょうこ)。
「……きつ」
そのあとどう歩いたのかはよく分からない。
気がついたら家の前まで明が引っ張ってくれてた。
「わざわざ振り返っちゃうんだからね…」
「ハハ…」
「……大丈夫。あの2人に限ってそうなることは無いから」
正直見たくなかった。
分かってるよ。京子とゆうきは幼なじみだからお互いに恋愛対象として見ていないってこと。
それをわざわざ言ってくれるのは明なりの気遣いだろう。
「でも…」
「え…?」
「今はお互いにフリーだからさ」
それでも可能性ゼロだなんてこの世の誰が保証してくれる。
恋のキューピッドだってしないだろう。
幼なじみの恋だってある。
それに京子は、私とゆうきと別れて3日後に別れた。
しかも京子に彼氏が出来たのは私達が付き合い始めてからだ。
たまたまかもしれない。
だけどそうじゃないかもしれない。
恋愛なんて分からないことだらけだ。
「晴…」
「いつもあいつに引っ付いててさ、私がいるのもお構い無しに普通に抱き着いちゃうの…」
「……」
「……っ、必要以上に近付きすぎなんだよ…」
「晴…」
「…ごめん」
八つ当たりなんて…。
私は本当に何やってるんだろう。
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