しょっぱい初恋 -短編集-
一時間後、私たち3人は集まり、結果を報告しあった。
3人の写真データやレポートは元くんがまとめてくれるそうで、一応自分がやるべき課題は終わった。
そのあとは速やかに解散し、速やかにその場から立ち去ろうと試みたのだけれど、京子はそれを許してくれず…。
「晴ぅ、この後ご飯食べに行かない? ゆっくり話しもしたいし!」
「うーん、ちょっと疲れちゃって…」
「そっかぁ…。ちょっとだけでも…?」
「だめかな…」と上目遣いしてもダメ。というかやる相手and性別間違えてる。
正直気分は乗らない。
あぁでも。
こんなにも必死に懇願されると、断るのはなんだか気が引ける。
「……い、良いよ」
「ホント? やったー!」
私もなかなか人が良すぎるんだから…。
ハァ…、とまたため息。
今日の幸せはあとどれくらいくらい残ってるんだろう。
隣でいろんな話を私に話しかけてくれる京子には悪いが、私はその話を一つも真面目に聞いてなかった。
だって彼女の話はいつも桃色の話であふれているから。
そしてその中には勿論、彼の話も。
「あ~、お腹空いたねぇ」
「うん。お好み焼きで良かった?」
「うん! ……あっ、ゆうきくん!」
「…!」
ご飯を注文してその待ち時間に耐えられるか分からなかったので、出来るだけ会話を回避するべく、私は近所で行きつけのお好み焼き屋をセレクトした。
ここのお店は、自分たちで焼くことができるのだ。
我ながら冴えてたわー、と脳内で自分を褒めながら店の扉を開ける。
というタイミングで発せられた京子の言葉。
やっぱりもう私の中には幸せはほとんど残ってなかったようだ。
そんな私なんて気にもせず、京子は彼の元へと掛けて行った。
「よっ、京子。……あ」
ゆうきと目が合った。
その表情は困惑そのものだった。
「晴…か」
「…どーも」
「よ、よう…、久しぶり」
私は久しぶりじゃないんだけどね。
何故だか鼻の奥がツーンとした。
結局、京子がそれはそれはとてつもない気を使ってくれたおかげで、私たちはゆうきたちと一緒に食べることになった。
テーブル席にはゆうきと秋人が並んでいて、その向かい側に明と佐助(さすけ)が座っていた。
ゆうきと秋人、それから明は同じグループだったらしく、課題が終わったからご飯を食べに来たらしい。
他クラスの佐助が何で居るのかは分からないけれど、恐らく秋人が呼んだのだろう。
正直どこに座ろうか迷った。
ゆうきの向かい側に座れば必然的に顔を合わせることになってしまう。それはキツい。
かといって隣に座るなんて出来ないから私が明の隣に、京子がゲンマの隣にそれぞれ並んで座った。
明が軽く肘でついてきたのに対し、「大丈夫」と笑って見せた。
「晴、なんか飲むか」
早速ゲンマと話し出した京子。
そんな2人を勿論見たくもなく、水の入ったグラスを指で擦る。
そんな私に、秋人がメニューを手渡してきた。
メニューで顔が2人から隠れた時に、「無理すんな」とそんな言葉を添えて。
「ボソ……(さんきゅー)」
「……(あ、惚れた?)」
「……(んな訳ないでしょ)」
知ってたんだ……。
そう小声で話しかけた私に、「まぁな」と秋人は照れ臭そうに頬を掻いた。
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「ボソ……(ゆうきくんと話しなよ!)」
注文したお好み焼きを全て食べ終え、お腹も満腹になった頃。
ゆうきはトイレへと席を立ち、その隙にといった顔で、京子が小声で話しかけてきた。
「……(全然普通だし、大丈夫だよ!)」
ぱぁぁと花が咲いたような無邪気な笑顔。
この笑顔を一体どうしてくれようか。
天然の度を過ぎている。
ただの嫌がらせなんじゃなかろうかと、被害妄想さえ生まれてくる。
さっきからゲンマはこちらを見ようとしない。
一体それのどこが普通だというんだ。
普通に話すのは相手が京子だからなんじゃないの。
「……(…うん、ありがとう。頑張ってみるわ)」
いらいら、いらいら。
頭に血が上るのが分かる。
鼓動が早くなるのが分かる。
目のあたりが熱くなるのが、分かる。
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