しょっぱい初恋 -短編集-
つま先立ち
「-―オレ的には満開の桜の方が綺麗だと思いますけど」
「分かってないねぇアンタは」
「はぁ」とため息をこぼしつつ、葉桜の良さを語りだした彼女に笑みが溢れたのは言うまでもない。
だってそれ、去年も聞いたから。
だけど一生懸命語るその姿が、なんだか可愛かったから少しだけ意地悪を。
「それにね、葉桜って何だか…」
「オレに似てる…、ですよね?」
「…!」
オレよりも年上なのに、こんな風に表情を素直に出すこの人はいつもより子供っぽく見える。
オレよりも背が高いのに、さっきよりも少しだけ俺に寄り添う彼女にいつもより愛情が増す。
「去年と変らず、可愛いこと言いますね」
「な…、う、うるさい! ばか!」
「そんなオレが好きなんでしょう?」
オレはこの人に比べたらまだ子供だから、だからまだ貴女には「綺麗」なんて言葉は言ってやらない。
それが子供なんだと言われればそれまでだが、仕方がないじゃないか。
こんなオレでも一応気にしているんだから。
だから貴女だけ大人扱いは許せない。
オレと対等に、「可愛い」と…。
「律(りつ)のばぁか!」
「そうですか…」
「ちょっ…、冗談だって。そんなに沈まな…」
「冗談です」
「っ!、こんの…!」」
だけど嘘はついてない。
確かに部活や試合後の打ち上げでの貴女は、本当に綺麗だと思う。
でも、オレの前でだけ見せてくれる貴女自身は本当に可愛くて仕方がない。
「可愛いと思いますよ」
「つ、次はなんの冗談よ…」
「さぁ、どうでしょうね」
「……。律って本当に性格悪いのね」
歳はどうにもならないけど、身長ではいつか貴女を越すだろう。
そうなった時は、その細い体をキツく優しく抱き締めようか。
朝までこの愛を囁いてみようか。
いずれにせよ、オレが貴女を包み込む側に変わることは間違いないから。
「仕方ないでしょう。男は好きな相手に意地悪したくなる生き物なんですから」
顔を真っ赤にさせる可愛い貴女の腕を引っ張って。
今だけは…、とオレだけの内緒の我慢をしながらほんの少しだけ踵をあげた…。
つま先立ち(了)
貴女につま先立ちの口付けを
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