触れない温もり
「おはよーおはよー」と声が飛び交う校門。



その少し先に男女共に複数人集まっている。



その中心にいるのは……校内1の不良、黒桐 廉斗(れんと)だ。






あー……やばいなぁ………





黒桐は2年の春に転校してきた。


と、同時に比較的平穏だったこの学校に不良グループを作り上げた。




見るからに真面目で陰鬱で、こんなこと言ったら悪いが、いじめられる素質を持ってそうなやつは片っ端から潰された。





そんな噂を聞いた俺は、とりあえず単純に金髪にしてピアスをつけた。




この学校で黒髪でメガネなんて、いじめてくれって言ってるようなもんだ。




……まあ、見た目だけだから性格まで知られると困る。





いや、関わらなければいい話なのだが………






「よう、柏木ぃ」






最近よく絡まれる。




いつの間にか先ほどの人だまりから抜け出したようだ。

下から俺の顔をのぞき込むような形で、にぃっと笑っている。




「あ、あぁ、おはよ」



怖くないといえば嘘になる。




黒桐は不良の良くあるイメージとは違って黒い髪をワックスでオールバックにしている。


見た目は不良というよりヤクザだ。




「なんだぁ?今日は元気ねぇなあ?」



「あ、うん。まあね……」



「あ、テストだからだろ。柏木は頭いいもんなぁ」



なんだか嫌味に聞こえるのは俺だけか?



「う……うん。ちょっと自信なくて…」




俺の頭の中では、


頭いい=いじめられる


どうしよう……




うまくごまかしてーーーーーー





「でも、そんな黒桐がかつあげするなんてな」





ん?






唐突なその質問に戸惑う。



「え、なんでそれ知って…」




「おいおい、白々しいぞ?

あれ、俺がいるの確認した上でやってただろ」



「な、何言ってるのかな?」




「いや、俺の顔見た瞬間、周り見渡し始めて不審な動きになるとか怪しすぎんだろ

お前、頭いいのにな」






あー……バレてたかー




そう。確かにあの日、俺は黒桐を見つけたからかつあげをしたのだ。



なんでかって?


やっぱり見た目だけじゃ、イジメられそうじゃないか。

実際そうゆうことをしているっていう事実が必要だろ?




でも、もうバレちゃったな。


さよなら俺の高校生活。


アーメン。



そう心の中で祈りを捧げてる俺に黒桐が一言。




「でも、なんで俺がいるからかつあげなんかぁしたんだ?」



俺の顔を覗き込むのをやめ、目を閉じて考え込んでいる。




…………





もしかして………………






馬鹿?





それとも、自分が恐れられてることに関して無自覚なのか?




「おい。なんだ、だんまりかぁ?

なんか答えろ、あぁ?」




怖さで脅してくるあたり、無自覚ではないようですね。はい。




じゃあ、やっぱり馬鹿か。






はあ…と深いため息をついてから真実を述べる。


ごまかすのは無理そうだしな。




「黒桐、真面目なやつは片っ端から潰してるだろ?
だから、真面目なやつに見えないようにああやってカツアゲしたんだよ」




黒桐は……無言。



ただ、腕を組んで、目を閉じ、眉間にしわを寄せ、何かを考えるかのように首を傾げている。





「お……おい………?」




「お前勘違いしてねぇか?」




ん?





「え、何が……?」


「俺は、真面目なやつが嫌いなわけじゃあねぇ

つまらないやつが嫌いなんだ」



………よくわかんねぇ



「そうなると俺はつまらない奴じゃないのか?」




「お前、無自覚だったのか?」



黒桐はきょとんとした顔をする。




「無自覚って…」



なにがだよ。





「お前は……」


もう一度下から俺の顔をのぞき込む。



「十分面白いやつだぜ?」


にぃっと笑う黒桐。





「いや、つまらないだろ。
無駄に真面目なやつとか」




「何言ってんだぁ?

あ、そういえば、昨日、俺のダチにタバコ注意してただろ」




「あ……あれは………」



誤解だ。やめさせようとかしたんじゃなくて…………




「今日、荷物検査があるから『明日は持ってこない方がいい』って言ったんだろ?」




「え?あぁうん…」


なんで知ってんだコイツ………




「あーと、この間、うちのが、見た目がチャラいからって万引きの犯人と勘違いされて困ってたとこ助けただろ」




「だ、だって、それは助けないと………」




「フツー助けねぇぞ?
特に関わりもない不良助けて何の利益がある?
逆に面倒ごとに巻き込まれるかもしれねぇんだぞ?」



それは………分かってるけど…………




「まあ、俺はその躊躇いなくおせっかいがやけるところが気に入ってるんだけどな」



「?」



「だからー、俺のーーー」







キーンコーンカーンコーン………







「あっ予鈴!!」



やばいやばい。
テストなのに急がないと…………




「いいぜ、行ってこいよ。
大切な大切なテストだろ?」


話をやめて教室へ行くことを許す黒桐。




「あ、ありがとっ 」


そう言って教室に向かって走り出す。





………って






「あれ?黒桐は行かねぇのか?」


振り返って門のあたりをフラフラとしている黒桐に聞いた。



「あー、俺?
俺にはこれがあるからな」



そう言ってポケットから何か取り出す。




………なんだ、あれ?





「USBだよ、USB。」



「ま、まさか………」




「そのまさかだ」


どやっとドヤ顔を見せる黒桐。



「これで、テストの答えは全てわかるぜぇ?」




きっとあの中には、テストの解答が入っているのだろう。


………夜にでも職員室に忍び込んだのか…………






「それより行かなくていいのか?」



「あっ!!」


おせっかいがあだとなった………




まあいいや、早く行こう!




「じゃあな、黒桐も頑張れよっ」


そう言って走り始める




「おう!話の続きはまた今度な」



……続きがあるのか………



そう思いつつも黒桐のもとをあとにした。
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