触れない温もり
なんだかんだでテストには間に合い、いつもどおりにテストを受け終わった。


変わったことなど何もない。




筈なんだが……







「それにしてもガチで一人で来るとはなぁ?本当に頭が弱いのかぁ?えぇ?」


そう声をかけられたのは俺ではなく、俺の視線の先にいる黒桐だ。



黒桐は服も体もぼろぼろ。

喧嘩は強いと聞いたのに、流石に5人を相手にするのはきついのだろう。



俺はそんな路地裏で繰り広げられている喧嘩を建物の影から覗いている。


建物はパン屋のようでいい香りがしてくるが、このキリキリとした状況の中臭うと吐き気がしてくる。



じゃあ、なんで覗いてるかって?




だって、帰りに通りかかってたらクラスメイトである黒桐がちんぴら5人に囲まれてるんだぞ?



助けたい……


とは思う。


でもそれを拒むかのように足は奮え、一歩も前に踏み出せない。


それどころか体は後ろへ引き下がろうとしている。



何やってんだ俺。

こんなの忘れて早く帰ればいいじゃねぇか。




「うあっ」


黒桐がちんぴらのボス的なやつに腹部を蹴られ、呻き声をあげる。


「あぁ?なんだってぇ?聞こえねぇなぁ?」


ちんぴらは相変わらず下卑た笑いを仲間とともにしている。


仲間の一人が落ちていた酒瓶を持ち、壁に思いっきり叩きつける。


飛び散る破片。


思いっきり叩きつけたせいで俺の方まで破片が飛んでくる。



男はそのまま割れた瓶で黒桐の頬を押す。



黒桐の頬から真っ赤な鮮血が流れ落ちる。




そのまま首まですっとおろし、



「頚動脈切ったらどうなるんだろうなぁ?
俺アホだから知らねぇわー。
なあ、黒桐さんよぉ、ちょっと俺らに教えてくれねぇか?」



「んん、お前…ら………」






ゆ る せ な い



朝、黒桐にはおせっかいだと言われた。

自分でも少しそれは思った。

でも、誰かが苦しんでるのは黙ってみていられないだろ?


綺麗事?言いたいだけ言ってろ。



綺麗事だけじゃ済まなくしてやるから。




勇気を振り絞って前に足を踏み出す。




片手には2キロの小麦粉の袋。


パン屋の裏口に置かれていたやつだ。




両手で持ち、振り上げる。



「あ…危ないっ!!!」


そう、俺の姿を黒桐ごしに確認したちんぴらが声を上げる。


でも、もう遅い!




ばすぅんっ!!!




そう音を立ててちんぴらのボス的なやつの頭にぶつかり、白い煙を巻き上げる。



巻き上がった白い煙の中に消えてゆく黒桐の手をばっと掴みそのまま人気のないところへ走る



後ろからは、誰かが通報したのだろう。
警察の声が聞こえていた。
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