触れない温もり
あー……なるほど、
それで俺がつけてたようになったのか……



「本当に、路地裏まで追いかけられるのかと驚きましたよー

まあ、実際なんか独り言言って、ぼっちだということが発覚しただけですけど」


口元を少し歪ませて俺を馬鹿にする。



「言っとくが、友達は友達でも、親の都合とかで家に泊めてもらうのは申し訳ないだろ?」


「どうだか」


葵は、口元に手を当てにやけを抑えようとしている。


「そんなに疑うなら明日、学校についてこいよ」


「いや、いいです。めんどくさいので」



……これじゃあ、俺がぼっちだと勘違いされたままじゃねぇか……



……ん?
別に俺がぼっちだろうとそうでなかろうと関係ないか


……じゃあ、それでいいのか………?


うーん……



「どうかしたんですか?深く考え込んで。こっそり僕が尾行しないか心配でもしてるんですか?」



「してねぇーよ。

逆につけてくるつもりか?」



「だから、めんどくさいって言ったじゃないですか。

それに、僕にはやりたいことがあるんですーっ」


どやっ!と言わんばかりに得意げな顔になる。


「…やりたい事?
そういえば、毎日何やってるんだ?
それもその『やりたい事』なのか?」


「そうですよ!」


「で、何やってんだ?」


「内緒ですっ」



そう言って顔をほころばせる。


顔半分近くが前髪で隠れていても分かる、喜びと楽しみ。


こんな幽霊が楽しみにすることって何だ……?


これもまたいつか教えてもらえるといいな……



「じゃあそれもいつか教えろよ?」


「さぁー?永久に来ないんじゃないですかね」


にこにこしながら、ゆっさゆっさと左右に体を揺らす。



うわぁ……さらに気になるじゃねぇか……


こうなったら…


「こうなったら、力ずくで聞くしかねぇなぁー………っ」


言い終わると同時にベッドから飛び降り、葵に飛びかかる。






そしてすり抜け、壁にドーーーン





これこそまさに壁ドン!!!




「………いってぇ……」


あー…思いっきり壁に頭ぶつけた……


その上軽く突き指とか………


俺は、頭を抱えうずくまる。




それにしても、葵の笑い声が聞こえない……?


絶対笑われると思ったのに…


いや、別に笑われたいわけじゃないけど、どうかしたのか……?


ゆっくりと起き上がり振り返る。



「おい、どうかしたのかーーーー」


その先にあった光景は…







顔を真っ赤にして、お腹を抱えて笑っている葵の姿だった。


笑いすぎて息が吸えていないのか、声もなく、ひたすら苦しそうに笑っている。


「げっほ…げっほ…ごほごほ……」

むせたようで咳き込む。


「すぅ……ふぅ……すぅ……ふぅ……」


深呼吸をして落ち着く作戦のようだ。が、


「ふぅ……ふぅ……ふっ…ふふ………あっははははははっ」


落ち着いたと思えば、また思い出して、今度は、声を出して狂ったように笑い始めた。



………もう…やめてくれ……



「そんなに笑うなよ……つい…手が出ちまったんだから……」


「ふぅ…ふふふ……ついとか……壁ドン……これぞまさに壁ドン……ははは……ふぅ…ふふ」


葵は涙目で苦しそうに言葉を発する。

言葉もめちゃくちゃだ。



「あーもう!今のは絶対忘れて!!」


恥ずかしさでさらに頭を抱える俺。


「いや…無理です……こんな面白いこと、来世でも覚えておきます」


「おいおい……お願いだから生まれ変わんなよ……」


「さー?どうでしょう……あははっ」


……あははじゃねぇーよ




頑張って葵の記憶からこの黒歴史を消す方法を考えていると、


「れいー!夕ご飯できたわよー!」


という母さんの声。


「おっ、じゃあ、ご飯食べてくるわ。

お前はご飯みたいなのいらないのか?」


「けほけほ……この体になってからお腹空かないし、食べれないからいらないよ……

食べてもさっきの羚くんみたいに体をすり抜けて……ふははははは」


また思い出し笑い。


「またかよ…。それじゃあ、また食べ終わったら来るからな。

あと、ほんとにお願いだ。さっきのは忘れてくれ」


「行ってらっしゃい。

じゃあ、これより面白いことがあったらそれを来世まで覚えておくことにします」



……これ以上面白いこと=俺の恥ずかしいことなんてないだろ………


そう思いながら部屋のドアを閉めた。
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