触れない温もり
ご飯も食べ終わり、部屋に戻る。


「ただーいまっ(?)」



そういいながらドアを開け入る。



……ん?


そこで不思議なことに気づく。




……あれ?葵が見当たらない?


おかしいな………



そう思いながら一歩踏み出す。



「うわぁ!」


前にだそうとした足に負荷がかかる。

と同時に転倒。



いってぇ……


今日は何回痛い思いをしなきゃなんねぇんだ……


散々だな……



それにしてもこんなドアの前に物なんて置いたか……?




そんなことを思って、つまづいた原因となったものを睨みつけた。



足。





腰。





背中。





肩。





首。






そして、頭。




つまり、人間が倒れているということで。




いや、訂正。




幽霊である、葵が倒れているということで。



「ええええええええええええええええ!?」



本日何度目かの驚き。



「どうかしたのー?」

そう叫ぶ母さんの声が一階から聞こえる。



が、そんな場合じゃない!



「おい!大丈夫か!?しんどいのか!?どこか痛いのか!?」


パニクった俺は葵の体をこれでもかと揺らす。


「んっ………」


そこで返ってきた返答は………





「すぅ……すぅ……んんっ……すぅ……」




寝息だった。





「ふざけんじゃねぇ!!」


安心と怒りでベッドの上にあった枕を投げつける。



「ん……んあ?
あ、れいくん……おはようございます?
もうたべおわったんですか…?」


まだ眠そうな目を擦りながら起きる。



呑気でいいこった。



「……あ!あれ?なんか羚くん怒ってます!?どうしたんですか!?」


目が冴えてきた葵は今の俺の状況を見て驚く。



「はあ……どうしたって、今、おまえにつまづいて……………」



え……?



そこで、俺は気づく。




つまづいた→触れた



ん?



え?



「ええええええええええええええええ!?」




「うるさいわよー、れい」

また一階から母さんのお叱りの声。




「どうかしたの?」

葵が首をかしげて聞く。



「いっいまっ!ふふふふふふれっあたっ!つまづいたっあ!!?」


驚きで思考とろれつが回らない。




「なるほどー。つまり、何故か僕が実体化して、羚くんがつまづいたと。」


ぽんっと手を叩き理解する。


「……今のでよく分かったな」


流石だな。


「全部顔に書いてあったので」


前言撤回。
……分かり易いということか。




「まあ、そう言う事だ」


何が起こったかは分からんが、もう受け入れるしかない。




「あ!」


唐突に葵が叫んだ。


「どうしたんだ?
なにか思い当たることでもーー!?」



葵は俺の質問に答えず、無言でスタスタとベッドのそばによる。



そして、バッターーン!



倒れるようにベッドへダイブした。



当然のようにすり抜けベッドの下に埋もれる。



「お、おい。大丈夫…か?
それ、痛くないのか?」


よく事情のわからない俺はとりあえず、ベッドから少し出た足に話しかける。


「痛くないですよー。
幽霊になってから痛覚が鈍ってるんですよ」


そんなこと言いながら、もぞもぞとベッドの下に入り込んでいく。



「なにそれ、ずるい」


さっきトキメキの欠片もない壁ドンをしてしまった俺は、心底羨ましい顔をする。





「…………というか、出てこいよ。」
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