廻る時の中で


歩き出して数歩した時だった。

「っ!!」

私は誰かに後ろから抱きつかれ、声にならない声を上げた。

「姫、聞いて下さい」

耳元で貴方の声がした。

どきん…って、胸が高鳴る。

自分の脈がうるさい。

貴方に聞かれないかしら?

「俺は国に帰ります。こうして貴方に会うのは今日で最後にさせてください」

え?

今、なんて…?

嘘よね?

嫌でも頭の中で繰り返されるフレーズ。

“今日で最後”

涙が溢れ、視界が歪む。

頬を涙が伝う。

「…嫌」

私の口が勝手に動きだす。

「…姫」

「…そんなの嫌よ!今日で最後って何?私は明日も明後日も貴方に会いたい!」

「ローゼ姫」

貴方の宥める声が聞こえるけど、口は止まらない。

私は背中にいる貴方を振り切り、貴方と向き合った。


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