廻る時の中で


「…姫様!」

爺やが私を見て焦ったように呼ぶ。

私は扉の前に力なく座り込んでいた。

「…ッ、何?…今の話」

ルシファードが何?

バイス帝国の皇子?

タスク=バイス=ルシファード?

「…姫様、いつから…」

「…今の話は嘘よね?」

「……」

「バイス帝国の皇子だなんて!」

「……」

「何とか言ってよ!!」

叫んだ。

信じたくなくて。

「本当です」

爺やの近くにいた、見慣れない若い男性が言った。

私はその人を睨む。

「貴女様がお会いになっている男性はバイス帝国の唯一の皇子、タスク=バイス=ルシファードです」

その人は顔の表情を変えずに、私に淡々と告げた。

何の光も宿さない、冷たい視線をこちらに向けて。


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