S.U.K.I
そんな穹に何も言えなくなりながら、また訪れた沈黙の中鼻を啜る音だけが響いた。
「………だから、行かなくちゃなんぢゃん。」
その沈黙を突き破ったのは、いつもと違う暗く低い淘の声だった。
穹は、何がなんだか分からなそうに袖で隠していた涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔を出して首を傾げた。
「淘姉…………?」
「……伝えてないことがあるんでしょ?……やりたかったことがあるんでしょ?優君に……言わなきゃ、伝えてあげなきゃ、分からないぢゃん。」
淘は、ただ助手席のシートを見つめていただけだったけど、窓の外に目を向けて舞ってゆく綿雪と白く塗られている、夏は田んぼだった場所をひたすらぼーっと見つめていた。
「テレパシーなんてのはさ………ないんだからさ、言葉にしなくちゃ、分からないんだよ。『最後の別れ』なら、明日行かなくて……いつ伝えんのよ。」
また車内に沈黙が流れ、しばらくしてから穹は、申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめん、母さん………俺、明日行くよ。ちゃんと、伝えてくる。ありがと……淘姉。」
「分かった……みんなで、行こうね。」
お母さんは、涙ながらに喋る穹に柔らかく笑った。