S.U.K.I
「煌ちゃん?」
不思議そうに見上げる千歳の声で我に返ったものの、私には、笑顔を見せることも言い訳すらも作ることが出来なかった。
目の前を通り過ぎたお母さんは、脱け殻のように婆ちゃんにもたれながらただ涙を落とす人形のようだった。
ショックなのか分からないけど、自分の中がぐしゃぐしゃでどうしたらいいか分からない。
待ちくたびれた大河と千歳に押されて、外に出ると真冬なのにしとしとと冷たい雨が降っていた。
大河と千歳は、がっくりとうなだれて、べしゃべしゃの雪を蹴っている。
私は、迷いなく黒く塗り潰された空から降る雨の下に出た。
大河と千歳は、私を止めようと叫んでいたが、諦めたのかしばらくしたら声が止んだ。
さらさらと頬を伝い落ちていく雨。
まるで、悲しみの底で涙という感情表現の出来ない私の代わりに、空が泣いてくれているようだった。
頬が、髪の毛が、体全体が、徐々に雨を吸って、重たくなっていく気がした。
心臓に雨が染みていく気がした。