お兄ちゃんの罠に嵌まりまして。
静まり返るリビングでも、人が居ると居ないでは全然違う。



「心希が何言うかわかんねぇし、泊まるか。どうせ進路相談もしないといけねぇし」



「……お兄ちゃんには、言わないでね」



「そう言われてもな」



泊まるのは良いけど、考えたくなかった話題が上がる。

私は未だ、進学か就職かを決めてない。

もうすぐセンター試験が始めるけど、このままお兄ちゃんが推す、2人の出身大学を受けるのも、やりたい事も見付かってない今、受かったとしても続くかもわからない。

だったら、入学金が無駄にならないように就職をすべきと言われても、それすらもパッとしない。



「夢とかねぇのよ」



「長生き」



「……馬鹿か」



私を一瞥し、大きく溜め息を吐く慎君。

溜め息を吐かれても、わからない事はわからないんだから仕方ない。



「もしもの時はもう一度、先生の生徒になるよ」



「俺はな――…!」



「おやすみ!慎君」



冗談を繰り返し、慎君の肩を借りて立ち上がり、自室へと行く。

机の上に無造作に散らばる参考書を片してベッドへとダイブ。

毛布の中で膝を抱えて小さく丸まる。

寒いというより、安心感を求めてる。

寂しい訳じゃないけど、孤立感。

春になったら、私はどうなってしまうのか。

引きこもり生活?

そんな事になったら、お兄ちゃんがどうなるか。

怒るどころか、泣き出すんじゃないかな。

“大学行きながら、迷え”と……。



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