お兄ちゃんの罠に嵌まりまして。
・同居開始
「おかえりー」
お兄ちゃんが出張へと行った。
毎日は泊まらないだろうけど、初日である今日はやって来た慎君。
相当お兄ちゃんに言い付けられたのか、どこかヤケクソでやって来た様子の彼は、キッチンに居る私を見る事なく、疲れた身体をソファーに下ろした。
ジャージ姿の為、服のシワを心配する必要はないものの、晩御飯を運んでも良いものか。
迷った私は、とりあえず自分の分とビールを運んだ。
「はい、どうぞ」
今夜はしょうが焼き。
しかし、お肉は枚数に限りがある為、おつまみとして用意した枝豆と、そぼろ豆腐を出した。
「心優」
「何?」
「センター試験受けるついでに、就職活動してみるか」
「……やっぱり、進学も視野に入れるんだ」
ビールのプルタブを開け、一口呑んだ慎君に渡された、就職者向けの会社案内のパンフレット。
床に並べ、名前も見るも中小企業が中心。
まぁ、この時期に大企業じゃなくても、有名企業の応募枠があるとは思ってなかったけど、益々そんなところで働いたって……という、思いが出て来る。
有名企業や大企業に就職したところで、私のモヤモヤが晴れるわけではないのに。
どうしてこうも、面倒な性格に生まれたのか。
お兄ちゃんみたいに、チャレンジ精神というものを持って生まれたかった。
やらなきゃわからない。
やってみたら、楽しいかも知れない。
頭ではわかってるのに、気持ちが前に進まない。