お兄ちゃんの罠に嵌まりまして。
「本当に夢はないのか」



「……好きな人の子のお母さんになりたい」



親の記憶は曖昧。

だけど、両親が仲良くて、いつも手を繋いで仕事に出掛けてた覚えがある。

共働きで、お祖母ちゃんと保育園通いだったからか、余計にラブラブな両親の背中を覚えてる。

家に帰って来て、いつも母親に抱き締められてた記憶がある。

“パパと私の大切な子”って。

私の物心がついた頃だ。

お兄ちゃんは嫌がりながらも、順番に抱き締められてた。



「それも良い夢だが」



「褒めてくれるんだ」



「心優らしいと思っただけだ」



…私らしい、ね。

18歳にして、冷めてると言われてるのに。

それでも何だかんだ、祖父母やお兄ちゃんには素直に生きて来たんだけどな……。



「ま、彼氏を作れよ」



「3ヶ月で結婚まで行き着くなんて、気心知れた人じゃないとね」



「……誰が居るんだよ」



「あ、慎君しか居ないね」



人と深く付き合うの苦手だし、青春を謳歌するとか今更だし、諦めの人生しかないのかな。

そう考えると、寂しい人間だ。

途端に襲って来る孤独感。

自分で蒔いた種だと言うのに。



「お前さ、何かあった?」



「何かって?」



「心希から聞いた事がある。中学生位からなんだろ?感情を隠すようになったの」



「……いや、元々だよ」



「嘘吐くな」



「…………」



嘘ではない、筈だけど。
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