お兄ちゃんの罠に嵌まりまして。
洗濯物を干し、掃除機をかける。

6時起きした今日は、時間に余裕がある。

コーヒーをもう一杯飲みながら、新聞を読んでる慎君の前に、ハンカチとスマホを置く。



「座りながら手を動かして、忙しないな」



「私が居て、忘れ物させられないでしょ」



「完璧主義とは言わせねぇからな」



「うん。そんなんじゃないよ」



完璧主義とは言わないけど、慎君は本当に忘れ物が人より多い。

体育教師だし、忘れ物して困る物などないと思ってた。

けど、いつだったかな……。

まだ慎君が最初に着任した中学校の先生だった時だっけ。

我が家に保健体育のテストの解答用紙を持って帰って来て、採点したまでは良いけど、次の日にまんまと忘れて、お兄ちゃんが仕事の合間に取りに来て届けたんだっけ。

全校生徒の分で、量といいあんな大きな荷物をどうして忘れるのか。

イタズラで、財布を後ろポケットから抜いた時も気付いてなかったし、どっか抜けてる。

…“財布”?



「慎君、財布持った?」



「財布な……どこだよ」



新聞を折りたたみながら、当たり前と言わんばかりに後ろポケットを撫でるも、今穿いてるのはお兄ちゃんのジャージ。

ましてや後ろポケットもない。



「私が知るわけないでしょ?」



と言いながらも、思い出した事がある。

脱衣所に行くと、洗面台の荷物置きスペースに腕時計と財布が置かれてる。



「しっかりしてよ」



「しっかりはしてる」



…どうだか;;
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