お兄ちゃんの罠に嵌まりまして。
「まぁ良い。先に出るからな」



「うん。行ってらっしゃっい」



腕時計を嵌め、財布やスマホを鞄に入れて出て行く慎君を見送り、私は制服に着替える。

マグカップを片付け、リップクリームだけを塗って家を出た。

バスで3区間の道程を、今日も歩いて登校。

雨降り以外は利用しないバス。

ローファーでも、もう慣れた距離感。



「おはよう」



「おはようございます」



校門で、教師と生徒としての挨拶を慎君と交わして、教室へと行く。

特に仲良くはなくとも、クラス委員としての義理かで挨拶して来る女子に「おはよう」と返して着席。



「ねぇ、聞いた?ユリちゃんと山嵜先生がデートしてたんだって!」



「マジ!?やっぱり、生徒である以前に、あんな子よりユリちゃんの方が全然良いよね!」



「本当に!」



今日は朝から話題が上がってる慎君。

だから、私と慎君は何ともないって。

しかも、“ユリちゃん”て保健室教諭である白百合遙香-シラユリハルカ-でしょ?

私よりあり得ないから。



「ねぇ、山嵜先生にまだ未練ある?」



「どうして私が?」



噂話に花を咲かせてた2人組の女子が私のところへとやって来て、声を掛けて来た。

どんなタイミングで来ようと、そんな噂でヤキモキしたり、未練ありますとかないから。



「嘘。強がってるでしょ?」



「強がってもしょうがないでしょ。くだらない」



なのに変な憶測とか良い迷惑。

小学校なのか、ここは。
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