お兄ちゃんの罠に嵌まりまして。
「わかったら座れ。もう時間じゃねぇかよ」



SHRの時間を使って、慎君の不倫疑惑は払拭されたものの、不機嫌そうな彼の背中に苦笑い。

欠席者の居ない、埋まった席を一通り見渡して出席確認は終了。

矢継ぎ早に早口で、連絡事項を伝えた慎君。

廊下で待機してた数学の先生に頭を下げて去って行く慎君。



「お前、かなり惚れてるな」



そんな私の視界に侵入して来て、意味のわからない事を言い出す戸倉。

何を見て感じて、そんな事を言い出すのか。

戸倉から目を背け、とりあえず授業を受ける。



「岡本、お昼休みに職員室へ来なさい」



数学教師は学年主任の宮前-ミヤマエ-というおじさん先生。

頷きながらも漏れる溜め息。

どうせ、進路の事。

もういい加減に決めないと、自分の評価査定にも響くから、呼び出しに及んだのだろう。

その後も、4時限の授業をちゃんと受けて職員室へと向かう。

戸倉に「退学だったら教えろよ?」なんてからかいを受けたが、そこはもちろんシカトして来た。



「岡本。私は十分に考える時間を与えた筈だ。進路は決めたか?」



担任である慎君の正面を横切り、宮前の元へと行く。

書類や本に埋もれた汚いデスクの中心に置かれた職員だけが頼む事が出来る仕出し弁当。

中身はわりと豪華なメニューながら、周りの汚さが、モノの価値を下げる。



「全く決めてません」



鮪の刺身が可哀想と思いながら、正直に答える。
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