お兄ちゃんの罠に嵌まりまして。
「興味なかったし、同じ進路とか嫌なんだけど、戸倉はどうするの?」



「もっと興味持てよ」



「ヤダ。で、どうなの?」



「市大の医学部。俺、顔だけでなく頭も良いから山嵜にも推されたんだ。ばかみたいに高い学費を払ってまでB大に行くなって」



「言いそうだね。浪費嫌うし」



「すんげー必死に言うから貧乏かと思った」



「山嵜家は本当に普通の良い家庭だよ。理想が高いわけじゃない。かといって、志が低い事もないから、ある意味、山嵜家が本当の理想かもね」



「……そこに嫁に行くのか」



…何でまた、そこに話が飛ぶの?

どうしても私と慎君をくっつけたいのか。



「あーあ。教師より近いクラスメイトでも、兄貴のダチには勝てないな」



「何の話?」



呆れてたのに、意味のわからない事を言われて思わず口を開く。



「俺じゃダメか」



「……“ダメか”って……、言われても……」



たった一言。

好きとストレートに言われなくてもわかる言葉の意味。

2人で校庭を見ながら話してたのに、戸倉からの視線を感じる。

手元にあるおにぎりに目線を落とし、どう返そうか考える。

誰か好きな人が居るわけじゃない。

だけど、戸倉を異性として見た事は一度もなかった。

良い返事をしてあげる優しさや軽さもないけど、私には断り方がわからない。

慎君が居たら、私の気持ちを察して断ってくれるだろうけど、今ここに彼は居ない。
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