お兄ちゃんの罠に嵌まりまして。
『もしもし……。心優か?;;』



「クソボケ!!」



『すまん;;』



お兄ちゃんに返事は返さず、電話を切ると慎君が帰って来た。



「慎君、今日から私のお兄ちゃんになってよ」



「は?」



「あんな嘘吐きがお兄ちゃんとか最悪!!」



「何の話だよ」



カセットコンロをセットしながら、お兄ちゃんが出張に行ってなかった事を説明。

鍋を運び、お皿と箸もリビングに持って行くと、セルフで冷蔵庫から取り出した缶ビールを口にしながら、慎君は大きな溜め息。



「何の為に、ここに居たのかわかんねぇな。あいつの魂胆はわかってたが」



「“魂胆”?」



「あ?俺とお前をくっつけたいんだろ」



「私と慎君を……?」



「あり得ねぇだろ。頑張っても、妹でしかないだろ」



「……そうだね」



お兄ちゃんの企みは、私だってあり得ないと言える。

お兄ちゃん的な存在でしか、私も見てなかったから。

なのに、“頑張っても”って……。

今まで、私は慎君にとってどんな存在だったの?

心に吹く冷たい風。

鍋の湯気でも暖まらない。

寂しさを隠しながら、慎君の分をお皿に取り分ける。



「心優?」



「何……?」



「心希に嘘吐かれて、ショックか?」  



「…………」



そんな顔を、してるんだ。

私、ショックを受けてるんだ。

お兄ちゃんの嘘ではなく、慎君の言葉に。

同じ気持ちなのに、どうして……。
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