お兄ちゃんの罠に嵌まりまして。
自分が気付かないほどに、強張ってた身体。

心のどこかで、本当はショックだったと気付く。

こんな時にまで強がってて、素直になれなくて。

それでも、私の気持ちをわかってくれてた慎君は何者か。

袖から出した指先。

その目の前にある慎君の手を握る。

これ以上の騒ぎにはしたくない。

だけど、許せるかと聞かれたら、許す事は出来ないだろう。



「「…………」」



視線を合わすも、会話はない。

しかし、私の気持ちをまたも察してくれたのか、無言で頷き、校長室の方を見る慎君。



「岡本さん。これでも飲んで?」



「……ありがとうございます」



他の3年のクラスを受け持つ、女の先生が紅茶を淹れてくれた。

慎君のデスクに置かれた為、私はお礼を言って、席に向かう。

白の何の絵柄もないマグカップを両手に包みながら、私は椅子ではなく、床に腰を下ろした。



「どうした?」



「……椅子より、安定するだけ」



暖房の点いた職員室は寒くない。

けど、色々と考えてるせいか、膝が笑って仕方ない。

ショックだけでなく、きっと騒ぎが外に漏れないか、不安で震えてるんだ。

いつもの、強がった自分に戻れと念じても、戻れない。



「帰るか、心優」



「……帰る」



マグカップを持ったまま、飲みもしない私に見かねた慎君。

マグカップを下げられ、教室に鞄を取りに行ってくれた。
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