お兄ちゃんの罠に嵌まりまして。
・兄の願い―心希SIDE―



「ついに、動き出したか?」



「お前さ、いくら何でもこれはねぇだろ」



「もう手段がねぇから」



深夜0時、山嵜家のガレージから、1台の車が出た。

一番の親友とでも言うのか、もう家族同然となった慎の車だ。

学生時代、慎と共に連んでた柴田東児-シバタトウジ-の運転する車で追跡すると、明らかに我が家へと向かってる。

早くに両親を亡くし、俺はずっと、妹である心優を一番に優先し、大切にして来た。

けど、俺はいつも心優を守れない。

支えになってやれない。

押したら簡単に倒れそうな心優。

あいつを支えとなり、守って来たのは慎。

守って来たとは大袈裟だとしても、心優にとっての慎は、本当に良き理解者だろう。

お互い、好きだろうし。

だから、出張の度に慎に心優を押し付けたりしたのに、どうにもくっつかない。

慎なら任せられると、ずっと思って来たのに。

だから今回も、俺は心優が慎を頼るように。

もしくは、慎が心優のところへ行ってくれるようにと考え、東児を巻き込んでの無断外泊を企てた。

悪気はなくはない。

けど、俺には心優を救えない。

制服の中を覗かれた傷を、どう兄貴が癒せると言うのか。



「心優ちゃん、心配してんだろうな」



「慎がその心すら宥めるだろ」



職員室での心優は、俺に何も言わなかった。

俺に不安も悲しみも怒りも、何もな……。
< 43 / 57 >

この作品をシェア

pagetop