お兄ちゃんの罠に嵌まりまして。
兄貴として、そりゃあ寂しい。

少しは頼ってくれと思う。

だが、もうそれは不可能だと判断。



「慎が自分に気付くか?あいつ、相当な天然だろ?」



「忘れっぽくて、無自覚。俺もそこは引っ掛かってたけど、さすがにもう気付いてる筈。じゃなきゃ、セクハラ上司の教師にキレねぇよ」



「んー。まぁ、慎がキレたとは、相当だよな。感情を表に出すの、嫌いだし」



東児が言う通り、滅多にキレる事のない慎が心優の為にキレた。

お互いに気付いた筈だ。

兄貴の親友とか、親友の妹の枠を超えた存在なんだと。



「前にキレたのって、心優ちゃんにぶつかった男だったか?」



「ナンパした男だろ?」



「何だソレ!俺、知らねぇよ!?」



「お前がポチにうつつ抜かしてるからだろ?」



「ポチ言うな!チワワのチーちゃんだろ!」



「……どうでも良いんだよ、キャバ嬢は」



本当にどうでも良い、チワワと言うキャバクラのチーちゃんと言う女の話を切り上げ、マンション前に停車した車から降りた。

寒い冬空の下、3階の我が家のリビングの漏れる明かりを見つめる。

カーテンが締まってる事は関係なく、ここからは何も見えないのは当たり前。

だが、自然と見つめてしまう。

進展のある会話をしてくれるだろうか。

朝までに、慎は心優の傷を、少しでも癒やしてくれてるだろうか。

甘えてるのはわかってる。

だが、本当に慎しか居ないんだ。
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