お兄ちゃんの罠に嵌まりまして。
「ほれ」



「サンキュー」



マンションの斜向かいにあるコインパに車を停めて、自販機で缶コーヒーを買って来た東児からそれを受け取り、冷える手を温める。

ガードレールに凭れ、視線を地面に向け、次第に湧き出す虚しさに耐える。

素直に言ってわかるヤツらじゃないと、出張の件といい、罠に嵌めてやってと思って来たが、追っ掛け、見張ってる自分がダサい。

結果報告を待てば良いのに、俺は何をしてるのか。



「帰るか」



「は?今帰ったら、予定が狂うだろ?」



「何か、この時間が虚しい。それに寒いし、3人で呑もう」



「“虚しい”?お前はただ、心優ちゃんと慎を思ってこそ考えてやったんだろ!信じて待てよ!」



「もう、十分なんだ。心優は俺に連絡を寄越して来なかった。けど、慎を呼んだ筈だ。それも大きな進歩。2人にしては頑張った」



焦りだったのか。

2人のペースを考えた瞬間、心優が慎を頼ったという事だけで良かったと思えた。

それだけで、達成感、満足感が俺の中にはちゃんと出て来た。



「偉そうだな」



「付き合わせて悪かったな、東児」



「俺、何も言ってねぇ……;;」



「何が?」



「お兄ちゃんの考え、慎君にバレバレだよ」



「「…………;;」」



無数の星を見上げ、自己満足な俺へのツッコミ。

東児からのものだと、普通は思う。

だが、東児は慌ててるし、“お兄ちゃん”と言う心優の声に、寒いのに、背中には冷や汗が流れる。
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