お兄ちゃんの罠に嵌まりまして。
マンション入り口の死角から、姿を見せた慎に連れられた心優。

どこから聞かれてたのかはわからない。

だが、心優は頬を赤らめながら、自身の手を引く慎を見れない様子。

慎は慎で俺を睨んでるし、どうこの状況から逃げようか。



「東児、俺、酔っ払ってるのかぁ……?;;」



「ハハッ……;;謝るんだな;;」



「あ、謝る事ではないだろ!;;」



「お兄ちゃんっ!!」



「罠に嵌まってやったんだ。お礼を言え」



…そう、来るか?;;

そんな言い方があるか!?;;



「ハマったとしても、決めるのはお前たちだろーが!;;」



「あぁ。けど、嵌まってやっただろ」



「じゃー良い!心優を返せ!」



「変な事ばかり考えてるお前に、出来る事あるのか」



「うっ……;;」



…負けた……;;

天然なくせして、こういう事には鋭いヤツめ;;



「……アリガトウゴザイマス、シンクン」



「別に。とっとと入るぞ。風邪引く」



「……はい;;」



…悔しい……;;

何とも言い難い、この敗北感。

いや、今までだって、慎に敵わない事は多かったが、ここまで言い返せなかった日はない。

エレベーターという狭い気まずい空間をやり過ごし、我が家に入れば、味噌汁の良い匂い。



「暖かいな」



温度も、味噌汁の香りも。

柔軟剤に負けず、我が家に染み付いてる。

これぞ、家だな。
< 46 / 57 >

この作品をシェア

pagetop