お兄ちゃんの罠に嵌まりまして。
「俺が居ない間に、心優に変な悪い虫が付いたりしたら……っ!」



「付かねぇよ」



「怪我でもしたら……っ!」



「俺が呼び出されるだけ」



「慎!お前、ここに泊まれ!泊まるんだ!お前なら、心優をあらゆる闇からさえも救い出してくれるだろう!」



「……馬鹿じゃねぇのか、お前」



段々と調子に乗り、立ち上がって両手を広げてるお兄ちゃん。



「ンン゛ッ……!;;」



慎君に突っ込まれ、咳払いをしながら座り直すお兄ちゃんを尻目に、私は黙ってサラダを取り分ける。



「けどさ、10日は今までより少し長いし本当に心配なんだ。だから、俺が初めて出張に行った時みたいに、来てやってくれないか?」



「また噂が流れたらどうすんだよ」



「既成事実を作れ」



「「は?」」



「フッフッフッフッ……!あっハッハッハッ!」



…壊れた;;

声を張り上げて笑うお兄ちゃんは、もうどうにもならない。

1人、手を叩いてニヤニヤしてるし。



「どうする?既成事実はともかく、罠に嵌まってあげる?」



「まぁ、実際は何もねぇだろうけど」



「同感」



噂なんて、本当は気にしてない。

泊まる事だって今更な事。

お兄ちゃんの罠に嵌まってあげようという、私たちの優しさ。

お兄ちゃんだって冗談で言ってるだけで、私たちに何も起こらないってわかってる筈だし。

そうじゃなきゃ、慎君だって“嫌だ”と即答してただろう。
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