お兄ちゃんの罠に嵌まりまして。
「慎が相手なら、本当に安心なんだ」



「妙な信頼サンキューな」



お兄ちゃんのボソボソと漏らされた声を逃さなかった慎君は、空になったらしい缶を覗き、中を確かめ、新しいビールを取りに行った。

その背中を目で追いながら、“もしも”というものを考えてみた。

既成事実はともかく、私たちに男と女という関係性は生まれるのだろうか。

慎君が彼氏……?

そもそも、どうなったら恋をして、恋人になるのかがわからない。

18年間、生まれてから恋とかした事がない。



「何だよ」



「んーん。何も」



キッチンから戻って来た慎君。

私の視線に気付いて、声を掛けて来た。

首を振り、何事もなく食事を終える。

食器を片付け、取り込んだままにしてた洗濯物をたたみ、ワイシャツにアイロンを掛ける。



「ご飯は?」



「貰う」



キリの良いところで、慎君に声を掛けて腰を上げる。

お兄ちゃんはお酒を呑むとご飯は食べないが、慎君はしっかりと食べる人。

最初はお客さん用だったけど、いつの間にか慎君の専用となったご飯茶碗とお椀を食器棚から出して、ご飯とお味噌汁をよそう。

トレイに乗せ、冷蔵庫にあった明太子も出すと、残ってた惣菜をおかずに食べ始める。



「お兄ちゃんが言った事、無理しなくても良いからね」



「無理じゃねぇけど、10日も大丈夫なのか」



「……どうだろうね」



酔っ払い、床にゴロンとして寝てしまったお兄ちゃんを見ながら首を傾げる。

寂しいは寂しいから。
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