【超短編 06】美味しいケーキの作り方
 短い断りのメールを入れる。
 これも去年と同じだ。
 恵子も私が断る事を知っていてメールを入れてくれる。
 それを彼女なりの優しさだということも私は知っている。

 自分自身に気合を入れて、メレンゲの続きを混ぜ始める。
 彼とは付き合い始めて、もう5年が経った。
 一度もクリスマスを一緒に過ごした事がない。
 付き合い始めた頃、彼はとても申し訳なさそうに私に言った。

「ごめん、毎年クリスマスは仕事で会うことが出来ないんだ」
 私はその時、一人で過ごしても平気だ。クリスマスはそんなに特別な日じゃないと言って彼を慰めた。
 今思えば、失礼な事を言ってしまったと思っている。
 クリスマスは特別な日だ。
 子供のときは寝る時間になるといつもそわそわしていた。
 そして、小学生の高学年になる前くらいから、クリスマスの意味合いが変わってきた。
 素敵な男と過ごすクリスマス。
 その特別な日にロウソクを立てたケーキを二人で食べる。
 それから何回かそういうクリスマスを過ごしたこともあったが、それはそれ程特別にはならなかった。
 ただのイベント。
 そう思うようになっていた。
  でも、彼にとってクリスマスは何よりも大切な日だったのだ。
 付き合い始めたばかりで彼の仕事を知らなかったとしても、あの時私の発言は軽率だったとしか言えない。
 慰めているつもりが彼を傷つけてしまったんじゃないか。
 今でもそう思う。
 彼は、3年前から恵子たちがクリスマスに女だけで飲みに行っている事を知らない。
 言ってしまったら、きっと彼は恵子たちと過ごす事を勧めるだろう。
 そして、私のケーキの土台は別立てから共立てに変わり、そのうち攪拌機で混ぜ始める事になるのだ。
 それだけはしたくなかった。

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