さかさまさか
『お父さんさ』
『うん。』
『お嫁さん、あの受け付けの人?』
『違う。あれはうちの元ホステス』
『あっ、そう。』
『お前、学校行きたくないのか?』
『今更ね。』
『そうか~。』
『次、サーモン、お父さんさぁー。なんで逃げたの?』
『あの頃は、追い詰められてたんだ。
会社でも、部下だった奴に出し抜かれるし、お母さんは、パートでもリーダー。
次は、社員にって言われて』
『駅前のお姉さんは優しくしてくれた訳だ。』
『そう。向こうも老け線でな。』
『はまったんだね。加齢臭に。』
『けど、三ヶ月も持たなかった。キャバクラで知り合った。70の不動産関係の社長に乗り換えられて捨てられた。』
『はぁー。で、あの会社出来たの?』
『その爺さんの所に乗り込んだら、やっぱり余裕が違うね。
意気投合しちゃってさぁー。
穴兄弟だしって訳でさ。』

『はぁ~。』
『ラブホの支配人しないかってさぁ。』
『うん。』
『エーゲ海風呂がさぁ。ヒットしてさ、マーライオンとか』
『へぇー。』
『そしたら、知り合いの社長がさぁ。』
『もういいよ。』
『SM部屋もって。』
『笑えないよ』
『お母さん、幸せなんだな。ばぁーさんも、俺んとこで引き取ってもいいし。』
『うん』
『ありがとな。』
『何が?』
『来てくれて。』
『お金』
『おっ!こっちだ!』とお父さんが、まるで、セレブ主婦雑誌のモデルさんに、
手を振った。
その人は、私の手を握り言った。
『さくらさん』
『はい。』
この人がお父さんのお嫁さんだと、わかった。
『ごめんなさい。』と泣き出した。
私は、さめざめした。
『はぁ~。』
『私が、悪いんです。大事なお父さんを。』
『その人は、母と私とおばぁちゃんを捨てたんです。』
『大事とも思ってませんし、お金返してもらいに来ただけです。』とその人の手を振り払って店を出た。

これが現実かぁー。ともう、夕焼け空があたりを包んでいるのを、ぼんやり眺めながらタクシーを拾った。

見たくなかったな。


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