お前が愛しすぎて困る
しばらく車を走らせて、去年も花南と訪れたのと同じ場所に車を停めた。
桜の名所でもなんでもないここは、
住宅街の少し外れにあって、
夜のこんな時間にやってくる人間はほとんどいない。
坂道を囲むように枝を伸ばした桜が数メートル続いていて、
満開時は桜のトンネルができる。
天邪鬼で言葉の少ないあいつは、
もちろん「綺麗」なんて言わなかったけど、
いつまでもじっと、桜を見て立ち尽くしていたから、ここを気に入ったのは分かった。
俺は先に車から出て、
花南を待っていた時と同じように車にもたれて桜を見上げた。
夜の闇に浮かぶ桜の花びらが、くっきりと浮かぶように見える。
その景色は怖いくらい綺麗だった。
『怖いくらい綺麗』
さっきの花南を見たときと同じ感覚。
俺のイライラの原因は、
突然様変わりした花南だ。
変わってほしくなかったんだと思う。
今までの花南であいつは充分綺麗だったから。
それなのに突然変わりやがって...。
俺は煙草を取り出した。