お前が愛しすぎて困る





いつの間にか外に出ていた花南が視界に映る。


俺のいる場所とは真逆の方へ歩いていく後ろ姿が見えた。


とりあえず今はあいつに桜を見せてやろう。


そう思っていた時、



「きゃあっ!」


「っ!」



花南が歩いていった方から悲鳴が聞こえた。


間違いなく花南の声だ。


俺は走り出した。


「っ花南!」


姿を見つけて呼びかける。


「あっ…!」


俺の声に反応した花南が振り向くと、


そのすぐ後ろに動く何かが見えた。


暗闇の中、目を凝らしてじっと見ると、


その正体は野犬みたいだった。


中にはドーベルマンのような大きなのものまでいる。


それに犬の様子がおかしい。


興奮しているのか、


落ち着きなく花南の近くを動き回っている。


飛びかかられたら一瞬で襲われる距離。


背筋に寒気が走る。


花南は怯えてか、

犬と向かい合うように立ったまま、そこから動けなくなっていた。


俺はゆっくり花南に近づいた。


花南の腕に手が触れた瞬間、


俺の方にグッと引っ張り腕にしっかりと抱いた。


「…ゆっくり歩け。」


小声で呟くと、二人で車の方へ歩き出す。


けれど花南を奪われたと思ったのか、


背後から犬たちの低い唸り声が聞こえた。


「走れっ!」


俺の合図で走り出す。


だけどすぐに犬たちが追いついてくる。


「チッ!」


俺は持っていた吸いかけの煙草を投げつけた。


一瞬怯みはしたが、


またすぐこっちに向かって走り出す。


どうにか花南を助手席に投げ入れると、


飛びかかってくる犬を足で払いながら、俺も車に滑り込んだ。








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